狭い道で相まみえる両者の間隔は一歩か二歩程。
相手は隙だらけの霜月に向けて矢継ぎ早に突きを繰り出してくる。
霜月は火万気を呼び起こすことに集中できず、ただただ回避に徹するしかなかった。
「どうしたね、本当に戦えないのかね?」
「う、うるせえ!!」
すぐに決着がつくのもつまらないと、相手はわざと手を抜き、霜月を弄ぶかのように刀を踊らせ続ける。
霜月は強気に言い返しながらも、懇願の眼差しで時折前方に見える翳を見やった。
だが当然気付いてくれることはない。
それでも何度か翳の様子を窺っていると、翳の背後に立つ木の枝に何かが絡み付いているのが見えた。
(なんだありゃ……蛇?)
真っ赤な色をした蛇が、樹上から翳を睨んでいる。
そんな風に見えただけかもしれないが、どうしても気掛かりだった。
「何を余所見している?」
一瞬、蛇に注意が向いた間に、相手の切っ先が目前に迫っていた。
「うわああああ!!?」
頭を貫こうとしてきた切っ先が額に触れ、霜月は反射的に左手で刀を払い除けた。
そのとき……
ーードカンッ!!
霜月の左手から、激しい光を伴って爆炎が放たれた。
「なっ!?」
相手は刀に引っ張られるようにして転倒した。
爆炎の衝撃で刀が歪んでしまっている。
「えっ!?あ……悪ぃ、大丈夫か?」
当の霜月は自覚なく放った爆炎ーー火万気に驚きつつ、とんでもないことをしてしまった気になって心底申し訳なさそうに相手を覗き込んだ。
「……何故敵の心配をする」
「え、だって……なんか」
霜月の様子に、相手はつい「ふっ」と笑いをこぼした。
しかし、未だ戦意は途絶えていなかった。
「私は無傷だ。……残念ながらな!」
言い放つと相手は弾かれたように起き上がり、脇差を抜いて襲い掛かってきた。
「おわっ!?」
「敵に情けを掛けるのは得策ではないぞ!」
霜月も慌てて飛び下がり、再び相手を敵であると認識した。
先程放った爆炎を意図的に生み出そうと試みた。
爆炎の轟音は翳とアラク、他の運び屋の耳にも届き、全員が霜月らの方に注目していた。
翳は爆炎の威力を見て、複雑な面持ちをした。
(ちゃんと制御出来ないと危険……)
火万気を苦手とする翳にとっては由々しき事態だった。
「凄まじいな」
「そうですね」
相手に話し掛けられ、意識を霜月から戦いへと引き戻す。
答えながら相手を注視し、刀を納め、居合の構えをとった。
相手も刀を構え直す。
暫しの睨み合いの後、相手から間合いを詰めてきた。
刃が右肩に向けて振り下ろされる。しかし翳はぎりぎりまで微動だにしなかった。
(引き付けすぎだ!)
全く躱す様子のない様を見て、相手は「当たる」と確信した。
翳は相手がそう確信する……刃が着物に触れるか触れないか、その瞬間を狙っていた。
「っ!?」
相手の刃は空を切る。
直後、目にも映らない速さで翳の斬撃が相手の右の脇腹を捉えていた。
相手は咄嗟に身を引くも、回避には至らず翳の刃は深々と脇腹を斬り裂いた。
「っぐぁあああ!!」
叫びながら地面へ倒れこむ。
翳は表情ひとつ変えず、刀を相手の背に突き立てんとした。
しかし、そのとき頭上からの「火」の気配を感じて素早く後退した。
翳が立っていた地面に小さな火球がめり込み、そこを中心に地を這うような火の溜まりが出来た。
「……貴方は」
見上げると、樹上に翳を睨み付ける真っ赤な蛇が居た。
放った火球の余韻の火の粉を口から漏らしながら、悔し気に威嚇をする。
「黒縄ですね」
この蛇の気配は、かの黒縄のものとまったく同じだった。
蛇は樹上からボトッと降りてきて、自らを背の高い炎の渦で包む。
そこから段々人の形があらわになり、炎の渦が消え去ると蛇の姿はなく、黒縄が立っていた。
「もう少しだったのに」
「残念でしたね」
翳は表情こそ変えないが、火万気を持つ黒縄に警戒を強めた。
対する黒縄は、両腕に炎を纏いニヤリと笑みを浮かべていた。
「次はオイラが相手さ!」
霜月は黒縄が現れたのを見ていた。
相手の猛攻を掻い潜り、翳を黒縄の火万気から守ろうと飛び出した。
「翳ーっ!!今行くぞー!!」
「なっ、貴様!」
敵に堂々と背を向けて走り去る突飛な行動に動きを止め、その間に霜月はもう翳のもとに駆け付けていた。
あちらに加勢すべきか、と思ったが、ふともう一方の攻防戦へと目をやった。
「……先にあの女だな」
アラクと戦う2人に加勢し、3人で手早く片付けようと算段を立てた。
アラクの武器は己の肉体ひとつ……格闘。
対して、相手は2人とも刀を使う。
アラクにとっては圧倒的不利の構図……の、筈だった。
「……あんた、とんでもねぇな」
「舐めて掛かるからそうなる」
アラクは無傷だった。
相手の長は頬を腫らして口元から血を垂らしていた。
もう1人は脇腹を押さえ膝をついている。
「分かった。もう油断はしねえ。甘く見て悪かったな」
「気にしないさ」
アラクは甘く見られることも狙いだった。
女、しかも武器を持たない。
これだけで武器を持つ男を油断させることが出来る。
何より、その容姿からは想像もつかない強さで意表を突いたのだった。
「……いくぞ」
長は刀を構え、もう1人は遅れて立ち上がり、アラクの隙を窺った。
アラクは力を抜いて立ったまま2人の出方を観察する。
そして、背後から迫るもう1人の気配も察知していたのだった。
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賢♂ (金曜日, 28 11月 2014 00:55)
アラク、カッケ〜!
しだ (月曜日, 01 12月 2014 02:37)
アラクさまあああああああああ!!!
tX (月曜日, 01 12月 2014 17:53)
アラク様テラ有能( ̄^ ̄)ゞ
meishinkatari-sousaku (火曜日, 02 12月 2014 22:49)
皆様コメント有難うございます!
アラクが好評のようで…嬉しいです(*‘∀‘)