1-10.5話




加工屋の場所。そして自分たちが何者なのか。

 

口を固く閉ざし続けたものの、拷問の果にその全てをとうとう打ち明けた。

 

何故そこまで口を開かなかったのか。それはあることを恐れていたからだった。

 

 

 

「捕まった時点で俺らは終わってたのさ……バラしても地獄、バラさなくても地獄ってねえ」

 

 

 

長は憔悴した様子で呟いた。

 

 

 

「……これから、どうすんのさ」

 

 

 

隣に座り込んでいた黒縄が長に問うた。

 

 

 

「仮に解放してくれたって、どこにも行くアテなんざ無え。それどころか国に帰ったって……こんな失態やらかしちまったと『あの方』に知れれば殺されちまう」

 

「そう、だな」

 

「……ぁあ、そうだ、」

 

 

 

長が何かを思い出したように、牢の片隅の土を掘り返した。

 

中から出てきたのは、一本の巻物だった。

 

 

 

「ほれ」

 

 

 

それを黒縄に投げ渡す。

 

 

 

「これ、おいらの……」

 

「返す。お前はもう自由だ」

 

「……は?何さいきなり」

 

「言った通りだ。お前がわざわざ俺らの地獄に付き合うこたぁ無ぇ」

 

「い、今更何を……!」

 

 

 

黒縄の顔に浮かんだのは、離別の悲しみではなく、怒りだった。

 

 

 

「あんたも……あんたもおいらを……!」

 

「勘違いすんな。俺は本当にお前を逃がす気で言ってんだよ。役人共が目ぇ離してる今のうちに行っちまいな」

 

「……」

 

「ああ、でも最後に頼みがある。……このままやられっぱなしで終わるのもシャクだからなァ」

 

 

 

長は黒縄に耳打ちした。

 

 

 

黒縄は頼みを聞き届け、巻物をーー自身が描かれた絵巻物を握る手を震わせながら、ない交ぜの感情を込めて長を睨み付けた。

 

そして何かを振り切るようにばっと踵を返し、本来の姿に化け、絵巻物と共に牢を抜け出た。