1-7 邂逅




「うおおおおおー!!!」
 
 
 
霜月は雄叫びを上げながら、真っ直ぐ剣士と黒縄の戦渦へと飛び込んだ。
 
2人の間に割って入り、剣士を背に通せん坊の体を取る。
 
 
 
「……何だよ、また邪魔するのか?」
 
 
 
黒縄が不快そうに言い放ち、腕に纏う炎の勢いを増す。
 
 
 
「違う!俺はこいつを助けに来たんだ!!」
 
「……は?」
 
 
 
今度は霜月の背に遮られた剣士があからさまに苛立ちの声を上げた。
 
霜月は気にせずばっと振り返り、意気揚々と告げた。
 
 
 
「お前、火苦手なんだろ?だから!」
 
「……あの」
 
「ん?」
 
「そういうことは簡単に言わないで下さい」
 
「なんで??」
 
「……もういいです。退いて下さい」
 
 
 
話の通じない霜月に剣士の苛立ちは増すばかりだった。
 
霜月を強引に押し退けようとするも、霜月も抵抗してなかなか前へ出ることが出来ない。
 
 
しばらくその様子を唖然としながら見ていた黒縄だったが、長の叫びで我にかえった。
 
 
 
「何ぼーっとしてんだ!さっさと2人纏めて片付けろ!」
 
 
 
争っていた2人もそれではっと黒縄を注目する。
 
が、そのときには目前に一際強大な炎を纏った拳打が迫っていた。
一度に2人を巻き込むためだろう。
 
 
 
「っ……!」
 
 
 
躱しきれない。
 
剣士がそう確信したそのとき。
 
 
 
「危ねえッ!!」
 
「!!……っな、」
 
 
 
霜月が剣士を強く突き飛ばし、逃れさせた。
 
そしてすぐに防御の体を取る。
 
その直後、黒縄の炎の拳打が霜月に衝突した。
 
 
 
(防げるものか……!)
 
 
 
剣士は最悪の結果を予期していた。
 
 
しかし……
 
 
 
「いってぇ!!腕折れるかと思った!!……あれっ?」
 
 
 
霜月が食らったのは「拳打のみ」で、炎を受けたような傷、それどころか衣に焼跡すら見当たらなかったのだ。
 
当人含め、その場の全員が目を見張った。
 
 
 
「え?炎は?炎はどこいった??」
 
「オマエ……オマエもか」
 
「?何が?」
 
 
 
黒縄が少しずつ霜月から距離を置きながら呟く。
 
 
 
「オマエも、『火万気』使いだったのか」
 
 
 
その言葉に、皆は更に驚愕した。
 
 
 
「え!?お、俺が!?なんで!?」
 
「……今、オマエは当たる直前にオイラの炎を全部吸い取っちまったんだよ。オマエのものにしたんだ。こんなことが出来るのは万気使い以外に居ない」
 
「ほ、ほんとか!?俺全然分かんなかったぞ!!すげえ!!」
 
 
 
霜月の表情が驚愕から感激に変わる。
これも、本人が自覚無く記憶していた戦う力だった。
 
 
 
(アラクが言ってた俺の「底知れない力」ってこのことなのかー!)
 
 
 
霜月は一人納得していた。
 
一方、霜月が万気を使うと分かり、盗賊の長はぎりりと歯を食いしばった。
 
 
 
「せっかくあの剣士の弱点が火だと分かったのに、まさかあの小僧も火万気使いたあ……」
 
 
 
黒縄を剣士に向かわせても、霜月が立ちはだかれば無意味。
そうして霜月に足止めされるうちに、剣士が盗賊らに斬りかかるだろう。
 
 
 
「勝ち目は無い様だな」
 
「!!」
 
 
 
盗賊たちのすぐ傍の樹上から、一部始終を見ていたアラクが声を掛けた。
 
気付いた霜月がアラクを指差した。
 
 
 
「あー!!アラク!!そんなとこで何やってんだよー!!」
 
「加勢しようとも思ったが、君の力を確かめたくてね」
 
「もし燃えちまってたらどーする気だったんだよー!!」
 
「無論そうなる前に止めていたさ」
 
 
 
アラクは樹上からフワリと飛び降り、先に盗賊たちへと歩み寄っていく。
 
そして盗賊の長の目の前まで来ると、凶片狩の証たる石板を提示した。
 
 
 
「!!き、凶片狩……!」
 
「さあ、観念するんだな……と、その前に教えて貰いたいことがある。お前達はその紫彗片を何処へ運ぼうとしている?」
 
「……贔屓にしてる加工屋だよ」
 
「やはりか。その加工屋の場所は?」
 
「……」
 
 
 
長は渋々と、加工屋の場所が示された地図をアラクに手渡した。
 
 
 
「よし。……シマキ、役人達を呼んでおいで」
 
 
 
シマキは指示を受けるとアラクの肩からぴょんと飛び出し、突風を放ちながら巨大な黒い獣に姿を変え、街の方角へと飛んでいった。
 
 
 
「本当は後を尾けて加工屋にて纏めて捕らえる算段だったのだが……」
 
 
 
そう言って、剣士の方へ目線を向ける。
 
剣士はアラクに何かを言いたげに目線を返すが、すぐに顔を伏せてしまった。
 
 
 
「どした?せっかく盗賊の奴ら捕まえられたんだから元気出せよ!」
 
「あまり寄らないで下さい」
 
「えー!?ひでえ!!」
 
「火は嫌いです」
 
「あっ、そっか……」
 
 
 
霜月はしょんぼり距離を取った。
 
 
 
剣士の目的は盗賊を捕らえることではなく、凶片狩への参入。
しかしその凶片狩を妨害したとあっては、言い出し様もなかった。
 
 
 
「……まあいいさ。その代わり、君にも加工屋についてきて貰いたいのだが」
 
「えっ」
 
「手は多い方がいい」
 
 
 
剣士は内心の驚きと喜びを隠しながら強く首を縦に振った。
 
 
暫くして、シマキが役人達を引き連れて戻ってきた。
役人達は即座に盗賊達を拘束し、紫彗片の荷車を代わって引きながら街へと引き返していった。
 
 
 
「おっしゃー!!って、俺、ちゃんと責任取れたかなぁ?」
 
「……なんとも言えないが、君が乱入したことで盗賊達の勝機を奪うことが出来たのだから、結果としては役目を果たしたことになろうな」
 
「ほんとか!?やったあ!!……でも、俺まだついていきたいな。なんつーか、放っとけねぇ!」
 
「最初からそのつもりさ」
 
 
 
言い終わり、アラクは剣士の方を向いた。
 
 
 
「君の名前は?」
 
「……祐山 翳(ゆうやま かざし)です」
 
 
 
霜月と翳、アラクとシマキは役人に連れられる盗賊達を見送り、地図が示す加工屋へと歩み出した。