「ねえアラク」
「どうした、ソフィー」
「寒いのは、好き?」
「急にどうしてそんなことを」
「もう、今寒いからに決まってるでしょ」
「半獣の君なら、寒さは人間よりもマシなんじゃないかと思っていたが……どうやらそうでもないんだな」
「何言ってるの、半獣どころかほとんど人間なのに。アラクったらひどいんだから」
「すまなかった、そう機嫌を損ねないでくれ」
冬だというのに、彼女達は屋外で焚き火だけを暖に囲んでいた。獣の皮を簡単にあしらった安物の外套を多重に纏って、それでも凌ぎきれない寒さ。天から白い「贈り物」が舞い降りてこないだけ、まだいいのかもしれない。
「そうやって耳で遊ばないでよー」
ぷいっとそっぽを向いたソフィーの耳を、撫でるように弄んだ。するとソフィーはこちらに向き直ったものの、つんとした態度は変わらないままだった。
「遊んでなどいないさ」
「うそ。遊んでる。撫でるなら耳じゃなくて頭にしてよ」
「さりげなく希望するんだな」
からかうように微笑むと、ソフィーは眉をひそめた。からかっていることを知っていて、それに対する不満なのか。それとも意思がばれていることに対する恥ずかしさなのか。どちらにせよ、少し火照った顔は焚き火の明かりにまぎれていく。
「いいでしょ、減るものじゃないんだし」
「言葉を変えても言いたいことは変わらないが、な」
「そうやってまたわたしのことをからかうんだから……『撫でて』――」
が、言霊は効力を発揮するかしないかのうちに、アラクによって制止が入る。
「撫でているじゃないか。こんなことに言霊を使うんじゃない」
「だってアラクがからかうんだもの」
「そういうのは嫌いだったのか?」
「ううん。そんなことない」
にこりと満面の笑みをこぼす。
そっと頭頂部を手が往復する度、跳ねるように耳が動く。気持ちは素直だ。黙っていても、何かしらに表れてくるのだから。
「今夜は星が綺麗だ」
「そうだね。だから、冬は好き。ちょっと寒いけど」
そう言って、縮まった距離をさらに詰めるソフィー。アラクの肩に身体を預けると、その星空を望む。
弾ける炎の音は、静かに。弱々しく、視界の端で小さく色を添える。
「アラクは、冬は好き?」
「私は…………どうだろうな」
「そっか」
迷って、悩んで、曖昧な言葉で隠す。
でもどこか残念がったようにも見えた彼女の横顔が少しだけ切なくて、
「ソフィーがいるのなら、きっと悪くはないさ」
その裏側の気持ちを、そっと浮かべた。
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