「うおおおおーっ!!アラクーッ!!」
「!?」
「霜月!?そこをどけ!危ないぞ!」
「やだ!!アラクが危ないじゃん!!」
「算段ならある!!下がれ!」
「ハッ!喧嘩してる場合かよぉ!」
「霜月!!」
アラクが駆け寄ろうとしたときには、もう炎の渦が霜月に触れる寸前だった。少年は勝利を確信し、アラクは最悪の事態を予想した……が。
霜月の身体を覆い隠したかに見えた炎の渦は、突然霜月を軸に渦を巻くような動きに変わり、そのまま霜月の身体に収束していった。
「……へっ!?えっ!?炎どこいった!?」
霜月には自分を覆った炎が突然消えたように見え、自分の身体をせわしなく見回していた。アラクも少年も、暫し驚愕の表情を崩せなかった。
「これは、『集気(しゅうき)』……。霜月、お前」
「えっえっなんだそれ?やばいのか?」
「『集気』は己が持つ万気と同じ万気を吸収し自分のものにする力のことだ。万気使いなら誰でも持ち合わせている技さ」
「ば、ばんき??」
「説明は後だ。……少年。彼が君と同じ火万気を持っているとなると、君の炎は最早無力だ。2対1では勝機もあるまい。大人しく臨戦態勢を解け」
アラクが赤茶けた長髪の少年に言い放つ。しかし、少年は降参するどころか逆上し、怒りに任せてより大きな炎を両腕に纏わせた。自分の身長ほどもある巨大な渦だった。
「うるせえ!!退く訳にはいかねえんだよッ!!」
霜月は炎の大きさに思わず一歩後退る。だが、アラクはその場を動かず少年を見つめていた。
「ま、まずいだろ!!逃げようぜ!?」
「いや、必要ない」
アラクがそう言った直後、少年と炎の渦に急激な変化が起きた。炎の渦が急激に形を崩し、ぼん、という爆発音とともに消失したのだ。少年は爆発の衝撃で後ろによろめき、倒れた。
「ッ……く、そ……!!」
少年は起き上がるが、立ち上がることは出来ないようだった。その場にへたり込み、肩を上下させている。
「怒りに任せて見合わない力を発揮しようとするからそうなるんだ。もう万気を放つどころか動くことも出来まい。諦めろ」
今度こそ観念したのか、アラクの言葉を聞いて少年はうなだれた。
「今、何が起きたんだ??」
「一気に膨大な万気を放出したから暴発したのさ」
「ほえー……」
霜月は理解したのかしていないのか分からない返事をし、へたり込んでいる少年をぼうっと見つめた。。
「そちらも終わりましたか?」
「すげえ強いんだなー。俺、一人相手だって全然だめだったのに」
「生半可な強さでここまで来た訳がないじゃないですか」
相変わらず冷たい声音だったが、霜月は「かっけえー!」と目を輝かせて興奮を剥き出しにした。翳はそれを鬱陶しそうに聞き流しながら、アラクに尋ねた。
「これから加工屋に向かうんですよね」
「ああ。加工屋にある紫彗片の武具の回収と加工屋の捕縛だ。戦闘にはもうならないだろうが、油断はしないように」
「分かっています」
アラクは頷くと、戦闘を見守っていたシマキに指示を出し始めた。
シマキは頭を上下に振りながら「がおんっ」と快く返事をし、落ちている紫彗片の刀を一本ずつ咥えていった。
「少年は加工屋まで案内してもらう。手を貸すから案内が終わるまでは踏ん張ってくれ」
アラクは少年に近付き、手を差し伸べたが、少年はその手を払いのける。不愉快そうに眉を顰めながらよろよろと立ち上がり、「……ついてこい」とだけ告げて、3人の先頭をふらふらと歩き始めた。
少年の後をついていきながら、霜月は先刻出てきた『集気』や『万気』についてアラクに尋ねた。
「さっき言ってた『集気』とか『万気』って何なんだ?」
「『集気』は先程説明した通りだ。『万気』というのは、あの少年が炎を自在に操っていたように、あらゆる現象や物質を生み出し操る力だ。炎の他にも水や風など色々とあるな」
「へえー!なんかすっげえな!てことは俺、火を操れるのか?」
「そうなるが……もし、先程初めて火万気が覚醒したとなると『一身化(いっしんか)』という現象が起きる筈なんだが、まったくその兆候が見られないあたり、すでに火万気を習得していたということになる。それこそ、君が失っている過去の記憶のどこかでな」
「んー……?えっと、覚えてないだけで使えるってことか?全然知らなかったぞ!」
自分に宿っている火万気の力にわくわくしつつ、いつどこで習得したのだろうかという疑問も一緒に浮かび上がっていた。どう思い返しても、失った記憶の部分は延々と続く闇を手探りで進むかのように何の引っかかりも得られなかった。
探ることを諦めてふと意識を外界へ戻すと、隣を歩いていたはずの翳が少し距離を空けて歩いていることに気付いた。
「あれ?翳どうかしたのかー?」
「……いいえ」
霜月が訝しんで翳に離れている理由を聞きだそうとしたとき、先頭を歩いている少年が足を止めた。鬱蒼と草むらが茂る小川沿いの崖に、草木に覆われて殆ど見えない横穴が開いている。
「この奥が、加工屋さ」
道案内を終え、少年ははあ、とため息をつきながらその場に座り込んでしまった。
「ご苦労だった。……さて、これから加工屋を引きずり出す訳だが」
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和泉守 賢 (火曜日, 15 12月 2015 00:02)
霜月の天然の能力開花?
頭の方の天然も爆発で本当に愛すべきキャラ
集気に万気に一身化
漢字ワードがいちいち上手い